特別インタビュー 坂村 健氏/東京大学大学院 情報学環教授

2016年04月20日 

IoTが物流イノベーションを生む

物流業界にもIoTの言葉が氾濫している。「モノのインターネット」の訳語はあるものの、いまひとつわかりにくい概念だ。この3月に「IoTとは何か」の著書を出版した、TRONプロジェクトやユビキタス研究の第一人者、東京大学の坂村健教授にそのIoTの実態とは一体何なのか、そして物流や産業との関連性を尋ねた。

<坂村 健教授>
坂村 健教授

IoTとユビキタスとは同じ概念

―― IoTの言葉が世間にあふれています。その意味するところは。
坂村 IoTはInternet of Thingsの略称ですが、一般的に「モノのインターネット」と訳されるのが常です。しかし、正確には、「インターネットのようにモノをつなぐ」と訳したほうが実態に合っています。インターネットのようにというのは、インターネットがあるルールを守っていれば全く見ず知らずの人とも情報の交換のやり取りが可能なオープンなシステムだからです。TCP/IP(プロトコル)を実装したコンピューターやタブレット、スマホなどを持っていれば誰でも情報の交換が可能なのです。そのオープン性が多くのイノベーションを生みました。同じようにIoTの理想は、あるルールを守ることで、モノをネットワークにつないだ場合、モノとモノの間で情報の交換ができるということです。

―― モノとモノの間の情報交換とは。
坂村 例えば、室内灯がネットにつながっていると、スマートフォン(スマホ)で室内灯のオン・オフの切り替えが容易に行えます。また、窓のブラインドでも、屋根に付けたセンサーとネットでつながっていれば、太陽光の状態にあわせて自動的にブラインドの開閉ができます。さらに室内灯も自動連動できます。屋根とブラインドと室内灯がネットを通じて会話しているわけです。モノとモノがつながるというのはこういうことです。

―― 先生の進めてきたユビキタス研究は「何時でも何処でも意識せずに、情報通信技術を利用できる」ことですが、この概念との関連性は。
坂村 オープンな組込みシステム開発環境のTRONプロジェクトでは1980年代後半のプロジェクト開始初期から、「HFDS(超機能分散システム)」をプロジェクトのゴールとしていました。HFDSとは、分かりやすく言うと「どこでもコンピューター」という概念でした。身の回りのあらゆるモノにコンピューターが組込まれ、それらがネットワークで繋がれて、協力しながら人々の生活を影から支えるというイメージです。これをXEROXパロアルト研究所の研究員だったマーク・ワイザーが同じ内容で「どこでもコンピューター」をラテン語的に言った「ユビキタス・コンピューティング」という言葉を使ってから、これが一般化していったわけです。「あらゆるモノ」というのに注目した呼び方がユビキタスで、繋ぐほうに注目したのがIoTです。ですから、ユビキタスとIoTは本質的には同じものです。「ユビキタス・コンピューティング」以外にも「パーヴェイシヴ・コンピューティング」「サイバー・フィジカル・システム」、「マシン・トゥー・マシン」と様々な言葉があふれましたが、それらを包括して今はだいたいIoTという言葉に集約されつつあります。

―― IoTは今までの技術や現象の延長だと。
坂村 そういうことです。ですから、何か新しい技術が誕生したといったことで恐れたり身構える必要は全くなく、いま現在さまざまな場面で身近に進行している技術の集大成だと認識したほうが良いでしょう。それと関連してビッグデータというものがあり、それを解析することで、新たなイノベーションが生まれるのです。

―― ビッグデータ解析も盛んです。
坂村 これは、モノとモノがつながることで、そのデータがどんどん増えていくわけです。屋根のセンサーとブラインド間のデータを何年かとり続けていると、日照時間の年間の平均値から月ごとの平均値、さらにはその日の晴れ具合などと、人間が好む室内の明るさの関係とか、あらゆる傾向が読み取れます。

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