段ボール箱や紙袋などを開梱するロボットが鹿島建設と安川電機の共同研究を経て実現した。自動車工場の生産現場で良く見るロボットと似てはいるが、腕が2本あり、より人間に近い形状だ。
人間の腕と同じ7つの関節を持つロボットを実現し、人間と同様に開梱していく。この「自動開梱システム」開発の経緯と基本ポリシーを開発に携わった鹿島建設の二人に聞いた。
<自動開梱ロボットシステムの動画>
ロボットが人間の「腕さばき」で開梱作業
2つの腕を持つロボットがまるで人間の腕の動きを再現したような「腕さばき」で、段ボール箱や紙袋の開梱を次々と行う。動きはロボットだけに正確だ。
開梱作業は運ばれてきた段ボール箱の両端とセンターをカッターで切り、両側に箱を広げ、中の物を取り出す。その後段ボール箱を解体し、所定の場所に積み上げていく。
紙袋の場合は、外袋を中袋まで破らないように、カッターで切り、上手に外袋と中袋を分離していく。可搬重量は片腕約20kg、開梱時間は段ボール箱で約1分48秒、紙袋で約1分10秒だ。
段ボール箱や紙袋が交互に運ばれてきてもその形状を認識し、正確に判断する。段ボール箱の形状も場合によってはへこみや凹凸があり認識しにくいものもあるが、それらもほぼ正確に認識するための工夫も凝らしている。
腕の本数の違いを除けば、まるで自動車工場での溶接や塗装ロボットの動きそのものだ。
<双腕ロボットを利用した自動開梱システムのイメージ図>
開梱作業の自動化にはニーズがある
開発を担当した鹿島建設の福井正部長は、「ロボット自体は安川電機さんが新規分野開拓用に開発したものを基本にしています。2009年から共同研究を行ってきましたが、当時私どもは医薬品・食品工場において自動化の進んでいない工程で利用ができないものか考え、そこで開梱作業に目をつけたのです」と語る。
同社ではこれまでも生産・物流施設の設計・施工に数多く携わっており、現場での経験も豊富だった。同社赤木宏匡課長は「自動化の観点で実際の現場を見ていて、段ボール箱の開梱作業にかなりの労力を使われているのに気付きました。単調かつ重労働だけに自動化の要望は以前からあったと思いますが、ロボットに作業させるには複雑すぎるという課題がありました」と当時を振り返る。
しかし、開梱作業は単純で人よりロボットの方が効率的に進められると考え、さらに医薬品・食品業界でのさらなる自動化のニーズとして確実にあるものとし、2009年から安川電機と共同研究を始める。ハード部分は安川電機が受け持ち、周辺機器を含めたシステム設計を鹿島建設が担当することになった。
7軸双腕で人間の腕の動きを再現
この自動開梱システムに使われているロボットは安川電機が開発した7軸双腕ロボット「MOTOMAN-SDA20D」をベースとしている。人の上半身をイメージした双腕ロボットで、今まで人が作業していたスペースにそのまま設置できる。7軸というのは人間の腕の動きを分析すると7つの可動域(間接)があるということで、ほぼ人間並みの動きを実現している。
<7軸の動きを持つ双腕ロボットは珍しい>
この腕の動きが、対象物の位置決め、カッターナイフによる外装切断、原材料の取り出し、外装の解体・回収等を行う。切断対象物の位置の認識や、動作の完了を確認するための各種センサーを備えており、作業ミスの防止機能、リトライ機能も搭載している。今後、ソフト面の変更でさまざまな用途に利用できる可能性を持つ。
開梱時の人間の動きに驚く
もともと、「MOTOMAN-SDA20D」が開発された背景は製造業の組み立て作業(ボルト締め作業、部品組付け・挿入作業、部品搬送作業等)だった。それを開梱作業に目を付けたのは、鹿島建設の生産・物流ラインの施設や設計の長年にわたる現場経験の蓄積だった。
「医薬品・食品工場では製造ラインの自動化はほぼできていますが、その前後の工程はまだまだ人の手で行われている状況でした。そこでまずは、最初の原材料の開梱作業に目を付け、自動化することを考えたわけです」と福井部長。
両社の「開梱ロボット」開発の研究が本格的に進められる。「思った以上に開梱時の人間の腕の複雑な動きに驚いた」という赤木課長の言葉のとおり、さまざまな障害が表われてはそれを一つずつ解決していった。
作業の効率化と省エネ環境を両立できる
この開梱ロボットはすでに医薬品工場の資材開梱作業へ今年中に1台の導入が決まっている。当面は「医薬品・食料品分野の開梱作業部門への導入を図ります。作業の効率化を図ることが出来、人間が行っていた重労働から解放されることで労働環境の改善にも寄与すると思います」と福井部長。
さらに赤木課長は「省エネ環境で作業させることができるので、照明と空調は取り扱う品目が許す最小限に抑えることができ、夜間の電力が安い時間帯に作業をさせることもできます」と人間に替わるロボットの優位性を強調する。
<ロボットの動作は人間の動きを参考にしているだけにどこかユーモラスだ>
ロボット本体の価格にシステム設計が加算されるので価格はケースバイケースだという。箱や袋の種類が多い分、認識にかかるプログラム設計も必要になる。そのため、現在は比較的種類の少ない、医薬品・食料品・化粧品などの製造工程の原材料開梱作業に重点を置いて提案していく予定だ。
ただ、今後は通販事業者や物流・流通加工業者にもニーズはあるとし、販促策を考えて行くとしている。すでに、ロボットの動きを映像にしたDVDも製作し、見てもらった企業からは高い関心を呼んだようで、実際にロボットを見に九州まで足を運んだ企業もあるという。
さらに、海外進出にもロボット需要が見込めるとして取り組みを考え始めている。
21世紀はロボット時代と言われて久しいが、単調で重労働分野でのロボットの活用は、今後益々進展するに違いない。開梱という分野でのロボット利用は始まったばかりだ。
<2011国際食品工業展(FOOMA JAPAN)での鹿島建設のブース>
<実物は展示できなかったが、ディスプレイで動きを解説>
<左側が福井部長、右側が赤木課長>
鹿島建設
エンジニアリング本部
生産・研究施設
第3グループ部長
福井 正氏
鹿島建設
エンジニアリング本部
生産・研究施設
第3グループ インダストリアル・エンジニアリング担当課長
赤木宏匡氏